重金属中毒Heavy Metal Detoxification
■腸と重金属〜サプリメントが効かない時に考える第一候補〜
たとえば、精神疾患を腸から治す、という発想は、日本の医学界にはまず無いですよね。
でも、自閉症のような原因不明とされる疾患や、自己免疫疾患、アレルギーなどに、腸内環境の問題が絡んでいるのは、アメリカでは、
代替医療の世界では常識ですし、いわゆる現代西洋医学の世界でもコンセンサスを得てきているかもしれません。たとえば腸で異常繁殖したカンジダ菌が、慢性疲労や精神症状の原因となっているのであれば、方法はいろいろありますが、カンジダを減らす。それによって症状が改善する。
それだけでなく、副腎疲労の問題や、ナチュラルホルモン療法、遅延型食物アレルギーなど、日本の医学界ではほとんど聞いたことのない概念や治療法。
薬を完全否定するのではまったくありませんが、痛かったら痛み止め、眠れなかったら睡眠薬、といったような対症療法ではなく、「根本原因」を探して治療できる、という手ごたえ。
「病気」というパズルのピースがひとつひとつ埋まっていくという実感に、どきどきワクワクしながら、日々の診療を行ってきました。
もちろんマイコプラズマ脂質抗原検査&治療もそのひとつにあたります。
でも、それでも何かが足りないなあ、と思っていました。
そこで開けたのが、重金属をはじめとする、有害物質の世界でした
東洋医学、栄養療法、機能性医学ときて、なかなか見つからなかったパズルのピースの一つが、重金属キレーション療法でした。
重金属とは、水銀や鉛、カドミウムやアルミニウムなどの人体に悪影響を及ぼす有害ミネラルのことで、
キレーション療法とは、それらの有害ミネラルを体外に排出させる治療のことです。
私は主に点滴によってキレーション治療を行っています。
関節リウマチや線維筋痛症や慢性疲労症候群など、いわゆる「原因不明」と言われる病気の患者さま。
栄養療法でよくなる方もいらっしゃいますが、難渋することが多いのも事実でした。
そういう患者さまに、尿中重金属誘発試験(*)をやらせていただくと、水銀や鉛がたくさん出る方の多いこと。
(*キレーション点滴後の尿を蓄尿して、重金属の排泄量を調べる検査です)
そして、念のためと思って歯を調べてもらったら、アマルガムの入っている方の多いこと!
(アマルガムとは、水銀が50%入った歯の詰め物です)
しかも1本でなく、5本とか、8本とか・・・
統計を取ったわけではありませんが、やはり具合が悪い方ほど、多くのアマルガムが入っている印象があります。
これには冗談じゃなくお口あんぐり、まさに、驚愕・・・でした。
アマルガムだけでなく、日本人は魚介類の摂取が多いこともあり、ただでさえ有害金属の蓄積量は多いのです。
慢性疲労や線維筋痛症、うつ、自閉症、関節リウマチ、PMS、不妊症・・・
数え上げたらきりがないほど、多くの疾患が、重金属などの有害物質によって引き起こされています。
このことを知って、私にとって謎だったことが、かなり解明されました。
また、重金属は体内での必須ミネラルの働きを確実に阻害します。
有害金属が、本来のミネラルになりすまして、ミネラルを必要としている部分(タンパク質など)に入ってしまうからです。
たとえば、亜鉛によく似ているカドミウムが、亜鉛を必要とする酵素(化学反応を行うタンパク質)の中に亜鉛の代わりに入りこんでしまうのですね。
いわゆる「なりすましサギ」のようなものです。 ヒィー!!��(`д´;ノ)ノ
そうすると、その酵素はちゃんと働くことができなくなってしまう。
カドミウムは精子形成や卵子の発育などに悪影響を及ぼすことがわかっており、不妊にかかわっている可能性が高いと考えられている有害金属ですが、
これは生殖機能に深くかかわっている亜鉛の働きを邪魔することが原因なのですね。もちろん、そこで亜鉛を摂ってあげるだけでもカドミウムの毒性は薄れますが、それだけではなくて、
亜鉛の邪魔をしているカドミウムを体から出してあげることが、本来のタンパク質の機能を取り戻すためには必要なのです。
というわけで、私の勉強不足といえばそれまでですが、栄養療法メインでやってきた私にとって、
重金属がこれだけ人体に悪影響を及ぼしていると知ったことは、衝撃的であったとともに、とても腑に落ちることだったのです。栄養療法で大量のサプリメントを処方することを当たり前だと思っていましたし、その必要性がある時ももちろんあるのですが、
毒性物質が本来の栄養素の働きを邪魔しているから、大量のサプリメントが必要なわけでね。。栄養療法を否定しているわけではもちろんなく、あくまでも何が根本原因なのかを可能な限り特定して、治療していくべきだと思うのですよね。
有毒物質の蓄積が多ければその分栄養素も不足していることが多いわけで、デトックスと栄養と両方やっていくのがベスト!だと思います。
ということで、腸内環境の治療やマイコプラズマ検査、副腎疲労対策や酸アルカリバランスの調整などの機能性医学のアプローチや、
ハーブなど、よいと思うものはとり入れつつも、
「 栄養 + デトックス 」
この2つが治療のベースになっている、というわけです。
・・・えっ、もうひとつ足りない?
もう一度オーソモレキュラー医療の概念をまとめると
・病気は細胞を構成している分子の異常により引き起こされる
↓
・その分子はそもそも栄養素で作られている
↓
・材料である栄養素を至適量用いることで、異常な分子を整合する
↓
・本来の機能が発揮され、病気の予防や治癒につながる
ということです。
これは素晴らしい概念ですし、とても腑に落ちました。
実際に栄養療法で、自分自身の体調もよくなり、そして現代医学的な治療では改善しなかった多くの症例が改善するのも見させていただきました。
しかし、臨床を重ねているうちに、栄養療法だけでも十分ではないことに気づきました。
そしてずっと疑問に思っていたことがありました。
そもそもなぜ、分子の異常が起こるのか?
ということです。
私が栄養療法を学んでいた時に教わったのは、単純に現代人には栄養素が不足しているから、という説明でした。
現代の食材自体の栄養価が落ちていること、また加工食品などからは栄養がそげ落されていて、栄養素が摂れているようで実は十分には摂れていない。
そしてその反面、ストレスや環境汚染物質などの影響により、栄養素の需要が増えている。
なので現代人は栄養不足なのだ、という説です。
これは確かにあると思います。
でも本当にそれだけなのでしょうか?
では、分子整合して健康を保ち続けるためには、延々と大量のサプリメントを飲み続けなければならないのでしょうか?
それは私の感覚では、おかしいと感じます。
(もちろんある程度は摂ったほうがよいと思いますが)
なぜ分子の異常が起こるのか? これは、
近年とても問題になっている、自閉症や注意欠陥多動性障害(ADHD)を含む、発達障害の増加。
なぜこれらの問題が増えているのか?
という疑問と、リンクするのです。
これらの原因はまだはっきり解明されてはいませんが、環境汚染との関連性が濃厚だと言われています。
何らかの遺伝子的な背景があるところに、環境汚染の負荷が加わり、脳の神経細胞に機能的または物理的な障害が起きているのです。
自閉症の治療で有名なアメリカのエイミー・ヤスコ博士は、自閉症の子どもたちを「炭鉱のカナリヤ」に例えています。
その昔、炭鉱で有毒ガスが出るとまず先にカナリヤが影響を受けておかしくなる。
なのでカナリヤの様子をみて、おかしくなったら逃げる。と、カナリヤを危険を早期に察知するために使っていたそうです。
子どもも同じで、有毒物質に敏感です。なぜなら発育途上なのでタンパク質代謝が非常に活発だからです。
たとえば水銀は、タンパク質のSH基に結合しやすいことが知られています。
SH基は硫黄を含有するアミノ酸であるシステインが持つ分子構造の一部ですが、
タンパク質の立体構造を形成するのに、SH基とSH基が結合してジスルフィド結合というものを作ります。この結合により、酵素やレセプターなどの重要なタンパク質の構造がつくられ、維持されるのです。
タンパク質合成の途中段階で、水銀がSH基に結合したとしたら、ジスルフィド結合が起こらなくなります。つまり正常なタンパク質の立体構造が構成が阻害されてしまいます。
異常な形になったタンパク質は、もうその機能を果たすことができません。
成人に比べ、子どもが有害金属の害を受けやすいのはこのためです。
自閉症などの発達障害では神経症状が主症状としてとらえられますが、成人における慢性的な水銀中毒ではもっと広い範囲の症状が起こります。
SH基はほとんどの体内のタンパク質に存在するからです。
慢性水銀中毒がこれと言った特定な症状を示さず、非定型的なのはそのためと考えられます。(だから見過ごされます)
おそらく現代人が持つ症状のかなりの部分にも、これらの環境汚染物質が関係していると考えられます。
このようなことを考えると、水銀をはじめとする重金属が、分子の異常を起こす要因の一つである、というのは明らかです。
そして現代においては、とても大きな要因の一つだと考えられるのです。
人体にそのような影響を及ぼす物質は、いまや重金属だけでなく、何万という化学物質が地球上に生み出され、数えきれないほどです。
このような時代は、当たり前ですが、人類史上初めてです。壮大な人体実験が行われている、といっても過言ではないでしょう。
これは人類の進歩(?)の裏の面のようなものと考えられますが、そこにフォーカスすると暗澹たる気持ちになってしまいます。
でも、これからの時代、残念ながら、その問題を避けては通れないのです。
栄養が不足していておきる問題は、もちろん栄養素の補給で改善するでしょう。
環境汚染物質による症状も、ある程度は栄養素の至適量の補給でカバーができるでしょう。
しかし、そのような汚染物質にさらされている状態を改善せずに、栄養素をとるということだけをしていったとしても、根本的な解決にはなりません。
体内の汚染物質を排除せずに栄養療法だけを行うことは、いい例えではないかもしれませんが、
ゴミためを塗り固めて、その上にいい材料を使って家を作ろう、としているようなものです。そのゴミをいかんともし難いのであれば、それが最良の策なのかもしれませんが、そうではないのです。
まずそのゴミを何とかしなければいけないのです。
たとえば重金属を排泄するには、キレーション療法をはじめ、いろいろな方法があります。
家庭でできることもたくさんあります。
これらの毒性物質を除去することで、異常な分子を本来の分子構造にもどすこと。それにより人体の持つ機能を最大限に発揮させること。
私は、これが真のオーソモレキュラー医療だとと思います。
つまり、
これからのオーソモレキュラー医療に必要なのは、デトックスである
というのが、私の結論です。
もちろん栄養療法は大切です。効率的にデトックスする際にもうまく栄養サプリメントを使っていく必要があります。
栄養素の働きは本当に素晴らしく、デトックスと栄養療法の両方を行うことで、最善の効果が期待できるでしょう。
また、汚染の程度に関係なく、遺伝子変異などで栄養素の必要量が多い場合は、至適量の栄養素の補給は必須でしょう。
何が最良かは、人それぞれ違うと思います。
しかし慢性病に栄養療法だけを行うのは(それでも十分素晴らしいことだとは思いますが)、おそらく片手落ちになるだろう、と思っています。
病気でなくても、将来の子どもたちのために、これから妊娠出産される若い女性の方ほどデトックスに取り組んでいただきたいです。
それについてはまた改めて書きたいと思います。
http://atanaha-clinic.jp/blog/?tag=%E6%A0%84%E9%A4%8A%E7%99%82%E6%B3%95